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カーボンプライシングってご存知ですか?

政府は2050年に温室効果ガスの排出を事実上0にする目標の達成に向けて製造業や電力会社などの企業が二酸化炭素を排出した量に対して金銭的な負担を負う「カーボンプライシング」という新たな制度の導入に向けて今月から本格的な検討に入りました。

 

 

カーボンプライシングとは

ひとつは炭素の排出量に応じて税金を取る案で炭素税とも呼ばれています。日本では2012年から同じような税として温暖化対策税が導入されていますか、より高い税率にしたり課税する企業の対象を広げたりすることなどが検討されます。税収は環境技術開発の支援などの財源に充てられることになります。

もう一つが排出量取引制度を国が主導して作る案です。こちらは、まず政府などが各企業ごとに二酸化炭素をここまでなら排出しても良いという上限、排出枠を決めます。そして、ある企業がこの上限を超過してしまった場合は排出枠が余った別の企業つまり排出量が上限を下回った企業から余った排出枠を購入するという仕組みです。市場を通じてこうした取り引きが行われることも考えられます。

いずれの制度も企業が二酸化炭素を多く排出すればそれだけ金銭的負担を負うことになるため、そうならないように排出削減の取り組みを強めることが期待されるのです。

更に企業の経済的な負担が増えるとそれが製品の販売価格や電力料金に転嫁され消費者である私たちの負担も増える可能性もあります。新たな制度には二酸化炭素排出のコストを社会全体で意識することで排出削減の取り組みを加速させようという狙いも込められています。

このカーボンプライシングを巡っては以前から環境省で研究が続けられてきました。それが今月から経済産業省でも研究会が立ち上がり、具体的な制度設計に向けた本格的な検討が始まることになります。背景には温暖化対策で世界各国に後れを取るわけにはいかないという政府の危機意識があります。

 

“グリーン経済”許されぬおくれ

5年前にできた「パリ協定」では気温の上昇を産業革命前に比べて1.5℃までに抑えることを目指すと合意していますが、この1.5℃に抑えるためには2050年までに世界全体でCO2など温室効果ガスの排出を実質0にする必要があると言われています

こうした中120以上の国と地域が2050年までに実質0を目標に掲げたほか、去年9月には環境よりも成長志向が強いとみられていた中国までもが2060年と実質0の具体的な目標年限を打ち出しました。

日本政府はその翌月になって、それまで今世紀後半のできるだけ早い時期に脱炭素社会を目指すとしていたのを改めて2050年までに実質0を打ち出しましたが諸外国に後れを取る形となりました

さらにアメリカはバイデン政権の誕生を機パリ協定に復帰したうえ、4年間で日本円で200兆円を超える予算を気候変動対策に投じる方針です。また、ヨーロッパ各国もコロナ禍からの景気回復に向けた経済対策で巨額な予算を環境関連に投じるいわゆる「グリーンリカバリー戦略」を相次いで打ち出しています

環境対策を経済の制約と捉えるのではなく関連する技術の開発や投資を通じてイノベーションを生み出すことでさらなる成長の原動力にしようとしているのです。この新たな土俵で日本が後れを取れば環境関連の技術で世界に取り残されたり、排出削減に取り組んでいないことを理由に日本製品が海外市場で買ってもらえなくなったりすると懸念する声も聞かれます。

そこでカーボンプライシングという新たな制度の導入を起爆剤にして二酸化炭素の排出削減を一気に推し進めようというのが政府の戦略なのです。

 

新制度導入への課題

ではカーボンプライシングの実現に向けてどのような課題があるでしょうか。懸念されているのは企業活動への影響です。各企業は二酸化炭素の排出削減に向けて様々な取り組みを進めています。

例えば自動車産業では水素を利用する燃料電池車の開発や電気自動車に搭載する走行距離の長い小型で低コストの蓄電池の技術革新に力を注いでいます。

また鉄鋼業界では原料の鉄鉱石を還元して鉄を取り出すのに炭素を含むコークスを使い大量の二酸化炭素を排出していますが、コークスの代わりに水素を使うことで二酸化炭素の排出を抑える技術の開発を進めています。

こうした取り組みには巨額の研究開発費や設備投資が必要となりますが、カーボンプライシングで新たな経済的な負担がかかれば技術開発などの資金が十分に確保できず、脱炭素の取り組みにブレーキがかかりかねないと産業界は懸念しているのです。

また日本ではすでに石油関連製品に様々な税がかけられており、カーボンプライシングでエネルギーコストが一段と上昇することで産業の国際競争力を弱める恐れがあるという指摘も出ています。政府としては日本企業の活力を削ぐことのないよう配慮する必要があります。

また排出量取引制度にも様々な問題が指摘されています。ひとつは産業ごと企業ごとの排出制限枠をどう公平に決めていくかという問題です。もう一つは排出枠を取引する価格が変動することです。

例えば景気が良いときは多くの企業で生産量が増え排出枠の上限を超えて二酸化炭素を排出してしまう事態が考えられます。すると、他の企業などから購入する排出枠の価格が高騰することが考えられます。逆に景気の悪い時には生産量が減るため排出枠のニーズが減り価格が低くなります

このように排出枠の価格が大きく変動すれば企業が経営計画を立てる際に必要なコストの見通しが立てづらくなるという問題が出てきます。制度の設計にあたってはこうしたマイナスの影響を抑える一方で企業が二酸化炭素の排出削減を頑張れば経済的にも大きなメリットが得られると考え、勢い積極的に温暖化対策に取り組むようになるといった方向を目指したもらいたいと思います。

もう一つの課題がカーボンプライシングをめぐる国際的な協調の枠組みを作ることです。

仮に日本だけが厳しい規制をしても企業が規制の緩やかな他の国に工場を移転して二酸化炭素を排出したら地球全体で考えると排出量は減らないということになります。

更に貿易面への影響も考えられます。カーボンプライシングのある国の製品は割高に、ない国は割安になることが予想され競争が不公正になる恐れがあるためです。

このため、アメリカやEUヨーロッパ連合からはカーボンプライシングのない国からの輸入品に関税を上乗せをするなど調整措置を取ることができるといった国際的なルール作りを求める声が上がっています

日本がカーボンプライシングを導入するのであれば自国からの輸出が国際競争で不利にならないようこうしたルール作りに乗り遅れないようにすることが必要となるでしょう。

このように環境と経済の両立には様々な課題が待ち受けカーボンプライシングの制度設計は容易ではなさそうです。

ただEU・中国にアメリカが加わり温暖化対策を巡る技術革新や国際ルール作りの流れは一気に加速しようとしています。グリーンを舞台とした新たな成長の波を確実に捉えるために足踏みを続けている余裕はあまりないということも頭に入れてい置く必要があるようです。

NHK解説委員:神子田章博

時論公論「カーボンプライシング “環境”と“成長” 両立への課題』より

funa-karui.hatenablog.com

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