東軍で思いもよらない事件が! さらに事態は意外な方向に!! 東軍総大将が西軍に!?
山陰から北九州を領国にしていた西国の雄 大内政弘。大内は莫大な利益を上げる日明貿易の権益や瀬戸内海の制海権を巡って細川勝元と対立関係にあり、勝元が幕府の覇権を握ることは大内には見過ごせない事態であった。
東軍にとっても大軍を率いて京を目指す大内は大きな脅威であった。
東軍総大将 足利義視は大内軍の上洛前に決着をつけようと西軍に内通するものを粛清し山名邸へも攻勢をかけていた。しかし1467年(応仁元年)8月23日、ついに大内政弘が3万の軍勢を引き連れ京に姿を現した。
この時、東軍で思いもよらない事件が起こる。
大内が加わった西軍に恐れをなした足利義視が室町殿から姿をくらましたのだ。
大内の援軍を得た西軍は室町殿や細川邸を取り囲み一触即発の事態に至った。そして10月2日。室町殿のすぐ東、相国寺を舞台に大合戦が繰り広げられる。
相国寺に陣を張っていた東軍に西軍の畠山義就や大内政弘らが猛攻撃を仕掛けた。3代将軍 足利義満が建立した大伽藍は3日にわたり燃え続けたという。その後西軍は東軍の反撃を受け、寺の蓮池に足を取られて600人もが討たれたと言われている。
壮絶な相国寺合戦以降、応仁の乱は膠着状態に入っていた。両軍がにらみ合いを続ける中、
事態は意外な方向に動く。
きっかけは伊勢に逃れていた足利義視が将軍義政の要請にこたえ上洛したことだった。義視は復帰の条件として幕府内で自分と対立する勢力の一掃を要求する。しかし義政に受け入れられず義視は、またしても出奔。そして、あろうことか敵方、東軍へ身を投じた。
奇っ怪な行動を見せる義視。はたして、その真意とは。
渡邊
「東軍総大将だった足利義視のとん走からですね、義視が東軍から西軍に加わりまして、応仁の乱は益々混乱してくるということなんですね。」
渡邊
「小谷さん、義視が西軍に寝返りましたけれども、これはどう考えればいいんでしょうか。」
小谷
「どう考えればと言われても、その、大将が自分の意志で敵方に行くなんてのは前代未聞。どう説明していいかわかりません。私には。しいて言えば関ヶ原の戦いのときの小早川秀秋なんかはそうです。あれは、どちらかというと東軍に調略された結果ですから、自分の意志でっていう感じでもないですしね。そう考えると思いつかないですなね。」
磯田
「凄いね、この人。東軍の総大将も西軍の総大将もやるの。」
呉座
「そうです。」
渡邊
「凄いですね。」
呉座
「言われてみると、あまり似た事例ってないかもしれないですね。それこそ関ケ原だったら徳川家康が西軍に寝返るみたいな、そういう状況ですから、そんなことあるかなと言われるとないですよね。」
中野
「まったく意味不明だと多くの人は思うと思いますが、見方を変えると一貫していると言えなくもないんですね。損害回避をずっとしているんですね。自分自ら戦ったり自ら意思決定したりという心理的負荷が高いときにこういうことをすることがあります。人間は。」
中野
「でも、この人にはもう一つの側面があって、総大将である自分は好き。だけども戦うのは嫌。この2つの欲求を満たすのがこの行動ですね。総大将でいられるけども戦わずに済むように責任を回避し続けて自分を守ってくれる方に行くんですね。」
呉座
「義視の場合はかなり特殊な状況ですよね。ちょっと前まで、ほんの2,3年前までずっとお坊さんだったわけですよね。で、しかも将軍家出身ですから、お寺ではみんながチヤホヤしてくれるわけですよね。将軍家から来たセレブなんで、みんなが言うことを聞いてくれるっていう、凄い居心地の良い所に居たわけですから。それがいきなり責任の伴う意思決定を迫られるという状況になってしまうと、何が何だか分かんなくなってしまうんではないかと。」
渡邊
「さて、応仁の乱に新たな登場人物がきました。大内政弘という人物ですね。与座さん、これは日明貿易で細川勝元と争っていたということですけれども、これはどういう意味があるんでしょうか。」
呉座
「あれ要するにですね、室町幕府が送った遣明船以外は明との貿易ができないってことなんですね。明は民間貿易を認めない。国家対国家の国家間貿易しか認めないんですね。だから、民間の人たちは行けない。」
呉座
「結局貿易に参加できる人がもの凄く限られているので参加した人たちにとっては利益の独占になるわけですね。だから大内にとってみれば、それは死活問題。だから細川とはそこで競合しているわけですよね。」
橋本
「文化史的な意味で言うならば、絵画であるとか陶磁器であるとか書籍ですよね。それから、足利将軍家に蓄えられてきたコレクションの中核をなしているのは唐物と呼ばれる中国・朝鮮半島の文物ですよね。そういうものが将軍家の権威にもなっていくし、それから贈答のやり取りにも使われる。それが将軍家の権威を昌運するものにもなっていくという大事なものですよね。」
呉座
「民間貿易できないから、手に入れられる人たちっていうのは限られている人たちでしかない。だからこそ価値がある。」
磯田
「もう収拾がつかないですよ。幕政の主導権争い、家督争い、領土争い、貿易権限まできましたよ。もう収拾できないですよ。」
小谷
「結局、大内が参戦してきたことで完全に拮抗しちゃいますよね。東軍と西軍が。」
呉座
「逆に戦力が拮抗したってことは、ある意味停戦のチャンスではあったはずなんですよね。義政が動くのって一番戦いが激しくなってる時に何とかしなきゃと思って動き出すんですけれども、一番激しいときに何とかしようと思っても、そりゃうまくいかないですよね。だから、ちょっと膠着状態になって落ち着いたところがむしろチャンスなんですけど、膠着状態になって落ち着いちゃうと安心しちゃうみたいな。」
中野
「そうなんですよね。到着状態になって落ち着くっていうよりも、自分が何もしない状態が好ましいんですね、彼は。自分が何かを決定しなきゃいけない時は、もう、どうしようもないときだけは動くんですけど、そうでないときは何もしなくて済むから、膠着して自分が何もしない状態が続くならそれが一番いいわけです。もう、他の人の迷惑とかは、まあ、聞こえてはいるし何とかしなきゃとは思うんだけど優先順位は高くないということになるんでしょうね。全体が見えているからこそ逆にバランスをとっているように見える。」
呉座
「本人の主観ではその可能性はありますよね。俺が上手くバランスを取ってやってるんだみたいな。」
つづく
出演者
【司会】
磯田道史
国際日本文化研究センター 准教授
主な著書に「武士の家計簿」「無私の日本人」など
【出演】
井上章一(建築史家)
著書「京都ぎらい」が話題に
呉座勇一(歴史家)
国際日本文化研究センター 助教
著書「応仁の乱」が40万部に迫るベストセラーに
著書「戦争な日本中世史」など
中野信子(脳科学者)
東日本国際大学教授
人間の行動や思想を脳科学の観点から多角的に分析
著書「サイコパス」など
橋本麻里(美術ライター)
永青文庫副館長
美術番組での解説から高校美術教科書の執筆・編集と幅広く活躍
著書「美術でたどる日本の歴史(全3巻)」など
小谷賢(戦史研究家)
日本大学教授
情報・戦略から見た戦史研究のエキスパート
著書「日本軍のインテリジェンス」など
※2017年7月現在
『英雄たちの選択スペシャル▽まさかの応仁の乱!もうどうにも止まらない11年戦争』より
ここまでお付き合いいただきありがとうございます m__m