東軍 細川勝元と西軍 山名宗全は和睦交渉を開始したが頓挫! 応仁の乱の難しさがここにある!!
1469年、応仁の乱も開戦から3年目に入り元号は文明へと改まる。長引く戦乱を避け僧侶や公家など当時の知識層は続々と洛中から脱出していった。
これが連歌や茶の湯など京都の文化が各地に伝播するもとになり後に小京都と呼ばれる都市をつくることになる。
高知県の中村に伝わる大文字の送り火。関白も務めた一条家が京を懐かしんで始めたと伝えられ現在も一条公ゆかりの火として地域の人たちに守り継がれている。
しかし守護大名たちの領国では京の戦乱が飛び火していた。
幕府の中枢を担う管領家のひとつ斯波家の領国、越前。斯波家は西軍 山名宗全の娘婿の義廉と東軍の義敏に分かれて家督を争っていた。
戦闘の末、越前を平定したのは東軍の義敏だった。
敗れた西軍の義廉は猛将として知られた家臣 朝倉孝景を向かわせ領国奪還に出た。
東軍はかねてこの朝倉に目をつけていた。西軍主力の朝倉に調略を仕掛け東軍への寝返りを誘っていたのだ。
朝倉の条件は自らを主君 斯波家の領国越前の守護とすることだった。勝元はこれを認め朝倉は東軍に寝返った。
越前を失ったことは山陰地方に領国を持つ山名や大内に大きな痛手となった。それは西軍が日本海側からの食糧補給を断たれたことを意味していた。
乱も6年目に入った1472年。厭戦気分が漂う中で東軍 細川勝元と西軍 山名宗全は和睦交渉を開始した。
だが、東軍優勢の中での和睦に西軍の畠山義就と大内政弘、足利義視が強く反対し交渉は頓挫した。
渡邊
「さあここにきて、なんと、西軍の主力である朝倉孝景が東軍に寝返ってしまうという大きな出来事がありました。」
小谷
「これは、西軍の補給路を断った上にですね、朝倉という戦争に強い武将をこっちに呼んでるということで大変上策だと思います。ただしですよ、ただし、ここの限りではいいんですが、やっぱりその、これ調略したのは細川勝元ですよ。私は細川はパンドラの箱を開けてしまったと。朝倉っていうのは斯波の家臣でありますから、下剋上を認めているわけですよ。そうなると各守護、武将にも家臣はいる訳ですから、その家臣がいつ自分の寝首を取ってもおかしくないという状況が生まれるわけですよ。」
中野
「最初は畠山氏、細川氏、斯波氏以外は管領になれないので山名宗全がいろいろ裏で暗躍するということがあったわけですよね。だけど細川側がこういうことをすると山名が管領になってもいいんじゃねえのってなるわけで、そうするとなし崩しになるんだけれども、どうしてこういうことをするのか。局所戦で勝とうとするあまり自らの足元を危うくするという行動をとって、どんどん火種が広がっていくというきわめて興味深い状況が創出されたわけですよね。」
呉座
「朝倉孝景を越前守護にするってことは斯波義敏から越前守護を取り上げて朝倉孝景に与えるということなんですね。別に斯波義敏がなんか悪いことをしたわけでもしくじったわけでもないのに、そっから取り上げるっていうのは普通に考えるとありえないことなわけですね。」
磯田
「秩序破壊でしょ。こんなんだったら誰だってなれるわけですよね。守護に。」
呉座
「下剋上の肯定。反逆の肯定ってことになる。究極的には実力さえあれば身分は低くても高い地位についてよいのだという話になると、それをどんどん推し進めていくと守護大名だって力がないのなら追い落としていい。将軍だって力がないんだったら追い落としていいということになっちゃうわけですから。それこそ体制の中の支配者階層が自ら基盤を掘り崩していったという。俺たちはともかく偉いんだというのを自分で否定するようになったんですね。実力がなきゃ意味がないっていうふうに言っちゃったわけだから。」
渡邊
「こうなったら、もう戦える状況ではないのにもかかわらず、和睦成立しないっていうのはなんでなんでしょうか。」
呉座
「これが応仁の乱の難しいところで、つまり、すでに持っている人たちとこれで一旗揚げてやろうという人たちが混じっているんですね。で、細川とか山名っていうのはすごいたくさんの領地を持っている人たちなんで、まあ金持ち喧嘩せずという言葉もあるように、そこそこで手打ちしようかという話にもなる。」
井上
「たぶんね。あのなんていうの、細川と山名はこの段階だと四分六で細川の勝ちぐらいで収めようというのは両方妥協ができてたと思うんですよ。だけどおっしゃったように、それ以外の目的で参加している人たちはそんな四分六で妥協されたら困るわけですよ。特に赤松は絶対困ると思うし、畠山義就も話が違うということに。これを収めるのは狸親父が2人交渉するだけではダメなんですよ。」
呉座
「もともと西軍も東軍も相手よりも多くの兵力、戦力を集めるために手あたり次第かき集めてきているわけなんでね。それこそ敵の敵は味方という論理で目的も思惑も違う人たちをかき集めてきてるわけですね。畠山義就は政長を倒すために参戦したんだから、政長の息の根を止めるまでは俺はやめられない。大内政弘にしても細川をたたくために俺は参加したんだから、ここで細川との戦いを辞めるなんてことは言えないという形で、みんなそれぞれ違う目的というか違う理由で参戦してるんで終わらない。やめたいっていう人はいても俺はここでやめたら得がない。俺は続けたいという話になるわけですね。」
呉座
「西軍に参加している大名が西軍が勝てばいいとか、東軍に参加している人たちは東軍が勝てばいいとかは考えていない。仮に西軍が全体として負けたとしても、西軍に参加している自分だけが得するという形で決着がつくというのなら、それはそれでいいわけです。」
中野
「一応東軍西軍と別れているけれども、東軍の人が東軍に西軍の人が西軍に勝ってほしいと思って戦ってないのが凄い。むしろ戦争が続いていた方が朝倉氏のようにもしかすると秩序を破って出世できる目があるぞということになれば、戦争が続いてくれた方が得になると。みんなが思う状態。」
つづく
出演者
【司会】
磯田道史
国際日本文化研究センター 准教授
主な著書に「武士の家計簿」「無私の日本人」など
【出演】
井上章一(建築史家)
著書「京都ぎらい」が話題に
呉座勇一(歴史家)
国際日本文化研究センター 助教
著書「応仁の乱」が40万部に迫るベストセラーに
著書「戦争な日本中世史」など
中野信子(脳科学者)
東日本国際大学教授
人間の行動や思想を脳科学の観点から多角的に分析
著書「サイコパス」など
橋本麻里(美術ライター)
永青文庫副館長
美術番組での解説から高校美術教科書の執筆・編集と幅広く活躍
著書「美術でたどる日本の歴史(全3巻)」など
小谷賢(戦史研究家)
日本大学教授
情報・戦略から見た戦史研究のエキスパート
著書「日本軍のインテリジェンス」など
※2017年7月現在
『英雄たちの選択スペシャル▽まさかの応仁の乱!もうどうにも止まらない11年戦争』より
ここまでお付き合いいただきありがとうございます m__m